2017年9月9日 静岡新聞
住宅街の一角にある2階建ての空き家をリフォームした。定員は6人。施設や里親家庭を離れ、就労中や求職中の15~22歳の女性が主な対象だ。
開所が夢だったという石川玲子施設長(39)自身も高校卒業と同時に施設を退所し、就職したものの人間関係に悩んで3カ月で退職した経験がある。
初めての1人暮らし。孤独に耐えられず夜間も外出し、生活のリズムが崩れた。仕事と家事の両立も難しかった。「誰に何を相談して良いかすら分からなかった」と不安な心境を振り返る。
県児童養護施設協議会による2012年の報告書によると、施設退所時に就いた仕事を退職した中卒、高卒者のほぼ全員が3年未満に退職している。県こども家庭課によると、実親などのサポートがなく、再就職ができずに困窮してしまうケースもあるという。
ほっぺでの生活費の一部は公費でまかなわれ、入居者の負担は原則として食費や日用品代の月額3万5千円のみ。
ひ・まわりの女性メンバーらが宿直当番を担当して声掛けをしながら入居者に規則正しい生活を促す。ごみは分別する、下着は外から見えない位置に干す、冷蔵庫にある食材で料理する―など、生活の知恵も伝える。
本来のホームの対象となる独り立ち準備の女性が入居するのは来春以降になる見込み。現在は、児童福祉法に基づく「一時保護」の少女が入居している。8月に同所で開かれた交流会にはひ・まわりの支援者らが集まり、開所を祝った。
石川施設長は「施設や里親の支えを離れる上、環境の変化で不安定になりがちな時期。安心して“社会人の練習”ができる場としたい」と話している。
<メモ>厚生労働省と県は本年度、児童福祉法に基づく支援が受けられなくなる20~22歳向けの施策を拡充する。生活費などの補助金の対象を、里親家庭や児童養護施設で暮らす22歳までの進学者だけでなく、就労者や進路を検討中の人にも広げる。一人一人の自立に向けた継続支援計画をつくるコーディネーターや、就労や生活全般についての相談に乗る担当職員も今後配置する予定。
入居している少女や「ひ・まわり」の支援者らが親睦を深めた交流会=8月下旬、三島市の「ほっぺ」。
2014年11月27日 静岡新聞
養護施設出身者ら新組織
県内の児童愛護施設や里親家庭など社会的要請の下で育った人たちで作る団体「ひ・まわり」(石川玲子代表)が今秋、動き出した。経済的、精神的な自立に向け共に支えあうよりどころを目指す。活動第一弾として、施設で暮らす子供たちを対象に初の交流会を開いた。メンバーは「見守る大人がいることを忘れないで」と語りかけた。
「初任給がもらえるまでの生活費は自分で用意しないと」「子供一人の養育には1千万円以上が必要になるそうだよ」富士市で10月下旬に開かれた交流会。同じ境遇と経験を踏まえたメンバーのアドバイスは具体的だ。社会に出て戸惑った経験に基づいて料理や生活必需品の買い物クイズ、進路選択の講和などを盛り込んだ。
県東部の施設で生活する女子中学生2人は、料理体験に興味を感じて参加したという。「将来のことは考えたことがないし、まだあまり実感もわかない」「でも仕事や恋人は慎重に選ぼうと思った」とそれぞれ感想を話した。交流会で女子生徒を終始優しいまなざしで見守った石川代表も施設で育った一人。「私は困った時にどこに助けを求めてよいか分からず寂しい思いをした」。今回の取り組みを通じて、後輩に同じような思いをさせてくないという気持ちを強みたと振り返る。「自立前に、親でなくても支えようと思う人がいることを知ってくれればまずはそれでいい」
需要掘り起こし課題
「ひ・まわり」は9~10月、富士市のほか静岡市と掛川市でも交流会を開いたが、参加はなく”空振り”に終わった。県内で社会的養護を受けることもは2013年3月末で835人に上る。県外では同様の交流会が多くの参加者を集める事例もあり、「潜在的な需要はあるはずなのに」と、メンバーは頭を悩ませる。募集はホームーページで行った。県内の児童養護施設11か所に活動趣旨の説明書きを添えたファックスを送ったものの、反応はいま一つ。」
施設訪問の申し出に「不要」と言い切る施設もあったという。
名古屋のNPO法人なごやかサポートみらいが定期的に開く交流会には毎回、数十人が参加している。清水真一理事(38)は「(社会的養護の下で育つ)当事者と関わりの深い施設関係者などの協力を得ることが交流会の告知の鍵」とアドバイスする。
ひ・まわりの石川代表は「交流会で当事者のニーズを集約すれば、当事者だけでなく施設職員や現場の待遇改善にもつなげられる」と地道な周知活動へ意欲を見せた。